【第2回】なぜ「異例」?危険運転致死傷罪で石橋容疑者を起訴!


東名高速であおり運転の末、相手の車を追い越し車線で停止させ、そこにトラックが追突し、停止させられた車に乗っていた夫婦が死亡した事件で、被疑者が危険運転致死傷罪で起訴されたというニュースが流れましたが、異例の起訴だという形で報道されました。
第1回目では刑事罰規定の拡大解釈の可能性について説明していただきました。
第2回目は本件のもとにおいて検察官は具体的にどのような解釈をした上で起訴したと考えられるのかについて、大本総合法律事務所の髙村 欣光先生にお話を伺いました。

どのような解釈がなされたの?


髙村弁護士:
まず、ここで注意しなければならないのは、検察官は、被告人が被害者の胸倉を掴んだ行為それのみを捉えて危険「運転」と考えているわけではないという点です。
これは、どこまでの範囲を実行行為と考えるかという問題です。
検察官は、直前になされた危険な運転行為とその後下車し胸倉を掴んだ行為、これらを不可分な1個の行為と考えているはずです。
すなわち、本件事故にかかる被告人の行為について細かく分析すると

① 100キロでの追い抜き行為
② 数度に渡る強引な割り込み減速による進路妨害行為
③ 車両停車行為
④ 下車し胸倉を掴む行為に分けられます。

危険運転致死傷罪2条4号における危険「運転」の典型例としては、過度な煽り行為、強引な割り込み行為、幅寄せ、急な進路変更がよく挙げられます。
そうすると①②の行為自体、危険「運転」であることに争いは少ないはずです。
しかし、本件では①②に③④をくっつけて1個の行為(「運転」)と考えているということになり、車に乗っていない状態でなされた③④の行為が①②にくっついた点が異例の拡大解釈の具体的内容になります。

もちろん検察官が、素直に①②のみを捉えて危険「運転」と考えた可能性も十分ありえます。そのように考えている場合、③被告人の停車行為、④下車し胸倉を掴む行為、及び偶然現れたトラックの衝突行為という事後事情が介在する相当因果関係の問題になると思います。

そもそも危険運転過失致死傷罪と過失運転致死傷罪は何が違うの?


- 報道によれば、県警は過失運転致死傷罪の罪名で送検したのに対し、これを受けた検察は危険運転致死傷罪の罪名で起訴したとされています。ネットやワイドショーでは「横浜地検よくやった」との声も一部見受けられるところであります。その一方で、そもそも両罪の違いはどのようなところにあるのか疑問に思っている人も少なくないのではないでしょうか。

髙村弁護士:
たしかに、両罪はともに交通に関する犯罪を取り締まる点で共通の面もあり、そのような疑問が生ずることも充分に理解できるところであります。
しかし、両罪には以下述べるように、二つの明確な違いがあります。

故意犯と過失犯
まず、危険運転致死傷罪は故意犯、過失運転致死傷罪は過失犯という違いがあります。
故意犯と過失犯の違いは、罪を犯す意思の有無です。
罪を犯す意思で犯罪を行うのが故意犯、罪を犯す意思なくうっかりやってしまった場合が過失犯ということになります。
本件においても故意犯かどうかは一つ重要な問題となりえます。
すなわち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた場合、裁判員裁判対象事件となりえるからです。裁判員裁判となることにより、国民の意見がより反映された判決が期待できます。このように検察官が、故意犯である危険運転過失致死傷罪で起訴したことにより裁判員裁判が可能になったという点に注目する必要があります。

刑の重さの違い
過失運転致死罪の刑の上限は、原則懲役7年です。
他方、危険運転過失致死傷罪の刑の上限は、原則懲役20年です。
このように過失運転致死傷罪より危険運転致死傷罪の方が刑が重いという違いもあります。
悪質な故意の交通事犯を処罰する、それが危険運転致死傷罪ということになります。

殺人罪ではないの?


- この事故により萩山嘉久さんと妻の友香さんが亡くなり、高校1年生と小学6年生(当時)の姉妹も怪我をしました。とても痛ましく、やりきれない事件であると思います。このことから、ネットやワイドショーにおいて「殺人罪を成立させるべき!」との声も大きかったように思います。本件のようなケースで殺人罪は成立しうるのでしょうか。

髙村弁護士:
たしかに、とても痛ましい事件であり、そのような声をあげる気持ちも充分理解できるところであります。
しかし、本件で殺人罪の成立が認められるためにはいくつかの壁を乗り越える必要があると思います。
具体的には、①客観面について被告人の行為が殺人罪の実行行為といえるか②主観面について被告人には殺意が認められないのではないかという壁です。
特に本件においては、主観面の問題に注目が集まる一方、客観面についての議論はあまりなされていないように思われます。

①殺人罪の実行行為性ってなに?
殺人罪の成立が認められるためには、被告人の行為が、客観的にみて死の結果発生の現実的危険性を有する行為(殺人罪の実行行為)である必要があります。
簡単にいえば、高速道路で下車させる行為が死ぬ危険の高い行為であるといえればよいわけです。

②実行行為性を肯定する立場
高速道路は、最低速度50キロ以上での高速走行が想定されている道路です。したがって原則として全車両が急停止困難な高スピードで走行しているといえます。また高速道路上は、基本的には人の下車が想定されていない場所です。したがって運転者の、高速道路上に人が立っていることについての予見可能性は低いといえます。そうすると高速道路上に下車させる行為は、高速走行する車両に引かれるおそれが極めて高く、死ぬ危険の高い行為であると考えられます。

③下車させた地点の重要性
路側帯は、警察車両や事故・故障車両が停止することが想定されている地点です。
仮に、本件における下車地点が路側帯であれば、全く下車が想定されていない危険な地点とまでは言えず、死ぬ危険の高い行為とは言いづらくなります。
しかし、本件における下車地点は、片側三車線の追い越し車線上です。路側帯とは異なり、全く下車が想定されていない地点といえます。
このような地点に被害者を下車させれば、後続車両に引かれる可能性は格段に高く、死ぬ危険の高い行為といってよいのではないでしょうか。

④実行行為性を否定する立場
被告人本人が先ず進んで下車するという判断をしたことから、この時点において客観的に死亡の危険性の高い状況はなかったことが推認されます。とすれば直後の被害者を下車させる行為時においても死亡の危険性が高い状況はなかったと考えることが可能です。また実行行為性を肯定する立場からすれば、本件における被告人本人の下車行為を自殺行為と考えることになります。しかし、このように考えることに違和感がある人もいるのではないでしょうか。
加えて、高速道路では例外的に故障車両、警察車両が停車することがあります。たとえば、警察官が事故処理のため高速道路上で一般人を下車させた場合、殺人の実行行為性ありとなる場合があるとなれば違和感がある人も多いのではないでしょうか。
このように考えれば本件行為の実行行為性が否定されるとの考えも成り立ちうるといえます。


このように本件行為の殺人の実行行為性については、肯定、否定双方の立場が考えられるところです。
いずれの立場に立つにせよ、主観面だけではなく、客観面についても十分議論が尽くされてしかるべきであり、この点にも光を当てるべきであると思います。


殺意とは
殺意は、殺人罪成立に必要な主観的要件のことです。
殺意には2種類あり、確定的な殺意と未必の殺意があります。

「確定的な殺意」とは、簡単に言えば、被告人が被害者を明確に、殺してやろうと考えている心理状態をいいます。
他方、時々刑事ドラマなどで耳にすることもある「未必の殺意」とは、簡単に言えば、死ぬかもしれない危ない行為を、それと分かったうえで、死んでもかまわないかと考えている心理状態をいいます。

本件に照らして言えば、仮に被告人が被害者を明確に殺してやると考えて高速道路上に車を停車させ、胸倉を掴んだのであれば、確定的な殺意が問題になります。
他方、被告人が、高速で車がビュンビュン走る高速道路において、車を停車させ下車させ胸倉を掴む行為は、後続車に追突され死亡する危険性の高い行為であると認識し、それと分かったうえで、被害者が死んでもかまわないと考えていた場合には未必の殺意が問題となります。

報道によれば、本件事件は被告人が被害者からパーキングエリアで駐車方法を注意されカッとなったことに端を発しているようです。
被告人が、見ず知らずの人から、駐車方法について注意されたことのみにより、果たして本当に殺してやるとまで考えたのか、また死んでもかまわないとまで考えていたのか、検察官としても、この点についての立証が難しいと考え、殺人罪での起訴を見送ったのはないかと考えられます。


<弁護士トーク編集部>
第2回目は、交通事故という私たちに身近な事件について、法律の解釈や適用の問題について解説いただきました。
「カッとなって思わず」やってしまったことでも、場合によっては非常に重大な結果を法律的に招くことがあることがお分かり頂けたと思います。そして今後も、法律が予想もしなかったトラブルの解決へ向けて、世の中が大きく変わっていくことも十分に考えられます。
弁護士トークでは、このような解釈の難しい法律の問題にも弁護士が無料でお答えします。
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