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「Jアラート」で電車遅延...損害賠償請求できる?


先日、今年の流行語大賞にJアラートという言葉がノミネートされたとの報道がありました。
北朝鮮のミサイル発射に伴うJアラートの発動を受け、電車などの公共交通機関が運行を見合わせたことなど、記憶に新しい方も多いと思います。
そこで今回は、Jアラートに伴って、電車が運行を見合わせたことにより、損害を被った場合の法律的な考え方について、弊社インハウスロイヤーにお話を伺いました。

Jアラートで電車遅延・・・鉄道会社に損害賠償を請求できるのか?


‐ Jアラートによって、電車が運行を見合わせ、例えば重大な契約を失ってしまった場合、鉄道会社に対して損害賠償を請求することは可能なのでしょうか?

電車が運行を見合わせた場合に、利用者が鉄道会社に対して何らかの請求ができるか否かについては、まずは、鉄道会社との契約の内容を確認する必要があります。
「鉄道会社とは契約なんて結んでいない」と思われるかもしれませんが、私達は電車に乗る際、鉄道会社が事前に定めている契約条件、いわゆる「約款」の内容に従って鉄道会社と旅客運送契約を締結しており、原則としてこの約款の内容に拘束されることになります。
そして、鉄道会社が定めている約款(例えばJR東日本株式会社の場合「旅客運送規則」という名称のもの。)上は、運行不能や2時間以上の遅延の場合等は旅客運賃の払戻しが認められているにすぎず、それ以外の損害賠償の請求については認められていません。

したがって、電車が運行を見合わせたことにより、重大な契約が締結することができなくなった場合に発生した損害を鉄道会社に請求することはできません。

‐ 約款にて規定できるとしても、そのような約款を見る人はいないので、無効だとは主張できないのでしょうか?

確かに約款の内容を事前に確認して、その内容を正確に理解した上で電車を利用しているという人はほとんどいないでしょう。
しかし、この約款は公開されていることや鉄道事業のように大量の利用者を低価で利用させるようなサービスの場合、個別の利用者毎に契約を締結していては膨大な事務作業が必要となり、低価なサービスを提供することができなくなってしまうこと等から、約款の内容を当該利用者が知らなくてもその内容に拘束されることとされています。
ただし、この内容が不合理な内容であり、公序良俗に反するような場合には、例外的に無効とされたり、そもそも拘束力が認められないという扱いがなされています。
しかし、本件のような損害賠償の制限は、鉄道事業を継続していくために合理的なものであるとして、公序良俗には反しないと考えられます。
裁判例でも、この損害賠償の範囲を制限した約款の規定が争われましたが、
「鉄道事業者は不特定多数の旅客を有料で輸送するものであり、鉄道事業者が列車の遅延について通常の債務不履行責任を負うものとすれば、損害賠償額は膨大な額となり得ることが予想され、大量の旅客を低価で運送することが事業上困難となるのであり、列車の遅延について上記のような免責規定を設けることには相応の合理性を認めることができる。」
として、列車の遅延による損害賠償責任を負わないものとしても、公序良俗に反するものではないと判断されています(東京地裁平成18年9月29日(平成18年(ワ)第8789号))。
したがって、この約款の内容を知らなかったとしても、無効だと主張することはできないでしょう。

国から補償を受けられる可能性は?


‐ 鉄道会社に請求できないとしても、Jアラートを発信した国に対して損害賠償請求をすることはできないでしょうか。

Jアラートの発信により電車が運行を見合わせそれにより重大な契約の締結ができなくなったということについて因果関係が認められることが前提ですが、仮に因果関係が認められたとしても、次のとおり国に対してその責任を追求することも難しいでしょう。

北朝鮮のミサイル発射に伴うJアラート(正式名称は「全国瞬時警報システム」といいます。)は、国民保護法(正式名称は「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律」といいます。)44条により「武力攻撃から国民の生命、身体又は財産を保護するため緊急の必要があると認めるとき」に発信されるものだと考えられます。
この点、国民保護法には、法律の規定に基づく処分によって国民が損害を被った場合、損失補償(同法159条)、損害補償(同法160条)等の規定がありますが、警報の発信により何らかの損害を被った場合の補償については規定はありません。これは警報の発信が、その発信を受けた者の利益に適う目的のためになされていることから、その利益を享受している以上、そこから発生した損害の補償を請求することはできないという考え方に基づくものだと思われます。

したがって、同法に基いて国に対して損失補償等を請求することはできないでしょう。
その他、国への請求としては国家賠償法に基づく国家賠償請求や憲法上の損失補償も考えられますが、同様の理由により請求は認められない可能性が高いと思われます。
以上より、本件のような場合に、国に対しても損害賠償の請求をすることは難しいと思われます。

(文責: 弁護士トーク株式会社 インハウスロイヤー 八木優大弁護士)


<弁護士トーク編集部>
北朝鮮がミサイルを発射しJアラートが発動されるなどした場合の対応は、各鉄道会社の判断に任されているようです。
例えば、ミサイル通過エリアから離れた場所でも電車を停車させる判断をした鉄道会社もあり、これに巻き込まれた利用者からは「迷惑」「過剰反応」といった声もあがりました。
しかし鉄道会社からすると国による指針が定められていない現状では、万が一を考えて対応せざるを得ないのが実情でしょう。
ミサイルが発射されないのが一番ですが、北朝鮮をめぐる報道を見ると今後もJアラートによる電車遅延の問題が起こる可能性が考えられます。

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