遺産分割前の遺産の管理について

◆遺産分割は揉める?

人は、誰しもいつかは亡くなります。
死後遺された人たちにとって、避けて通れないのが相続問題です。
ひとりの相続人による遺産の使い込みや隠し子の発覚など様々考えられますが、これらは経済的な問題だけでなく、元々あった親族間の溝をさらに深めるきっかけになるような、感情的な問題に発展することが少なくありません。


法律上の論点としても、相続人の範囲、遺言の効力、遺産の範囲、遺産の評価、特別受益・寄与分、遺産の分割方法など多岐にわたります。事案が複雑であればあるほど、その解決において弁護士の関与は不可欠となり、弁護士がこのような多種多様な問題点をひとつひとつ解決していったとしても、遺産分割の話合い開始から終了するまでに何年もかかることがあります。それまでの間、被相続人(亡くなった人)の財産は全く利用することができないのでしょうか。



◆被相続人名義の預貯金を、他の相続人の同意なく下ろせる?

「預貯金についてはすべて妻に相続させる。」との遺言が存在し、かつ、妻が遺言執行者に選任されている場合、その妻は遺言の内容を実現するため、必要書類を揃えて各金融機関に行けば、被相続人名義の預貯金の払い戻しを受けることができます。

しかし、そのような遺言がない場合、改正前民法下だと、遺産分割が終了するまでの間、相続人は、他の相続人全員の同意なく被相続人の預貯金を下ろすことができませんでした。平成28年に、預貯金は遺産分割の対象となるとの最高裁の決定が出たため、遺産分割が終わるまで、その預貯金を誰が取得するのか決まらないからです。

そうなると、生前に被相続人に生活費を出してもらっていた方は、いつまでも被相続人の預貯金を下ろすことができず、生活に困ってしまいます。このような不都合を解消するため、令和元年7月1日から法律が改正され、法定相続人(法律で定められた相続人のことです。)であれば、他の法定相続人の同意を得ることなく、各金融機関の被相続人名義の預貯金額の法定相続分(法律で定められた相続できる割合のことです。)に3分の1を掛けた金額の払い戻しを受けることができるようになりました(民法第909条の2)。但し、あくまでこれは仮の払戻しに過ぎないため、払戻金額について、各金融機関ごとに150万円という上限が設けられております。

例えば、A銀行に300万円、B銀行に1200万円の被相続人名義の預貯金があり、相続人が、被相続人の妻と子2人という場合、法定相続割合は、妻が2分の1、子が各4分の1になります。そのため、妻と子は、各々次の金額の仮の払戻しを受けることができます。

(1)妻の場合
A銀行300万円×2分の1×3分の1=50万円
→50万円の仮払戻し可

B銀行1200万円×2分の1×3分の1=200万円
→150万円の仮払戻し可(上限が150万円のため)

(2)子の場合
A銀行300万円×4分の1×3分の1=50万円
→25万円の仮払戻し可

B銀行1200万円×4分の1×3分の1=100万円
→100万円の仮払戻し可


もっとも、全ての金融機関の預貯金でも払戻しを受けることができるわけではありません。遺言に、「A銀行の預金については、Cに相続させる(若しくは遺贈する)」との記載がある場合には、A銀行の預金については、遺言が無効でない限りCが取得すべきものであるので、この仮の払戻し制度を利用することはできません。

また、この制度により仮の払戻しを受けた場合、後の遺産分割の際にきちんと精算されますので、ご注意ください。



◆より多額の預金の仮の払戻しも可能?

預金の払戻し制度(民法第909条の2)は、各金融機関で150万円という上限があり、これを超える分については、払い戻しを受けられません。しかし、被相続人の医療費や被相続人から扶養を受けていた相続人の施設入所費等、多額の支払が控えている場合に、被相続人の預貯金なしにこれらに対応できないこともあります。

そのような多額の資金需要がある場合に、家庭裁判所に仮分割仮処分(家事事件手続法第200条第3項)を申し立てることで、仮に預貯金を取得することができます。従前からこの制度自体は存在しておりましたが、利用できる場面が限られており、単なる資金需要ではこれを利用できないことが通常でした。しかし、法改正がなされ、資金需要があり、かつ仮に分割しても他の相続人の利益を害しなければ、これを利用できるようになりました。

もちろんあくまで仮に行うものであるため、払い戻しができる金額も、法定相続分を上限として遺産の総額から決定されます。また、迅速性が要求される手続のため、例えば、自己の寄与分や他の相続人の特別受益といった詳細な審理が必要となる事項については、あまり考慮されません。このような調整的な事項については、あくまで本案である遺産分割の調停や審判にて決めるべきだからです。

もっとも、仮分割仮処分の申立人(払い戻しを求めた人)が、遺言で多額の財産の遺贈を受けていることが明らかである場合、それが簡単に売ることができる財産であれば、売却して自ら資金を調達できるため、そもそも仮分割の必要がないことになりますし、この仮分割により預貯金を取得することで、他の相続人の相続分が害されてしまう可能性があるため、認められないことになります。





◆遺産の管理は大丈夫?

遺産の中に、マンションや駐車場などの収益物件がある場合や、高価な盆栽や観賞魚等特別な管理が必要になる場合には、遺産管理人選任の審判申立ても検討しなくてはなりません。
特に、既に遺産を他の相続人に無断で使い込んでいる相続人が遺産を管理しているような場合には、その相続人に引き続き管理を任せられません。その際、遺産管理人を選任することで、遺産分割審判が確定するまでの間、遺産管理人に遺産を管理してもらうことができます。

遺産管理人選任が認められるためには、財産管理の必要性が必要になります。財産管理の必要性とは、遺産の管理ができず、また、遺産の管理が不適切であるため、遺産分割審判が適正に行えなくなったり、強制執行による権利実現が困難となるおそれがある場合をいいます。

例えば、遺産を管理する共同相続人が、他の相続人の同意を得ずに遺産を費消、廃棄、毀損していたり、遺産を管理している共同相続人が、修繕など管理に適切な行為をしない場合には、この財産管理の必要性が認められるでしょう。

他方で、共同相続人の一人が、管理する遺産の収益を明らかにしない場合や、収受した遺産の収益を他の相続人に分配しない場合だけでは、保全の必要性が認められないと考えられています。また、遺産管理人は、遺産分割審判とともに申し立てるものなので、審判以外の方法で遺産分割を解決しようとしている場合には、利用することができません。

いつでも利用できるわけではありませんが、遺産が減ったり無くなったりするのを防ぐ一つの手段といえるでしょう。



◆まとめ

遺産分割自体も難しい問題ですが、遺産分割が完了するまで間の遺産の管理や預貯金の払い戻しについても、種々の法的問題が絡んできます。過去に遺産分割を経験されている方も、最近の法改正についてはご存じないかと思われますので、一度弁護士にご相談してみてはいかがでしょうか。


参考文献片岡武他3名『家庭裁判所における成年後見・財産管理の実務』日本加除出版、2011年



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